指輪(小説)

2019年3月11日 (月)

指輪 8-1

それからは特に問題もなく、今までの日常に戻った。

下宿に帰り、大学へ通い、サークルやバイトで精力的に働く。

今までの幼馴染として一緒に過ごしてきた時間も、今共有している時間も、当たり前のように積み重ねて語る事ができる。

だが、一部分だけ、美希の記憶はオレとは被らない。

すぐに分かった事だが、本来の記憶が戻った代わりのように、記憶障害の時期の記憶がほぼ無いのだそうだ。

事故から新年度が始まるまで記憶がスキップしてしまっている事を、美希は申し訳なさそうにしているが、そこを咎める人は誰もいないし、オレも負担に思ってもらいたくはない。

ただ、変わるべくしてオレは変わった。

その事をどう捉えるかは美希次第ではあるが、でも。

子供の素直さでは快諾してもらえたし、夢の中の話には納得しているようだ。

どちらも現実の話として捉えるには無理があるが、左手の薬指にある指輪を見せてくれたあの日、美希は納得したあとに、ゆっくりと、笑ってこう付け加えた。

「よろこんで」

美希の言葉は相変わらず優しくて落ち着く。

でも少しだけ真剣で確定的。

どこまで本気かは分からない。

でも、もしかするとそう遠くない将来、本当におこる出来事かもしれないのだ。



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何やら掲載の間隔を間違えてしまったらしく、途中から間延びしてしまいましたが…長丁場、一応完結です。
これはもう、随分と昔に話の筋はできていて、というか、漫画として描きあがっていたものです。
ただ、そのまま(漫画のまま)upするには、色々なところに不都合がありまして、かといって修正するには絵柄の問題とかで不自然さが残る。
いっそのこと全部描き直しも考えたんですが、だったら家族になる前の話なので小説に起こしてしまおう、となりました。
個人的には思い入れのある作品です。
色々とプロットを練り直さなくてもすんなり、一つの塊として勝手に出来上がったというか、そんな感じ。
お気に召していただけたら嬉しいです。
長期間お付き合いくださり、ありがとうございました。

2019年3月 4日 (月)

指輪 7-7

一気に言って振り返った美希は、ちょっと頬が赤かった。

「バイクと指輪、壊れてしまった物を見て、壊れた理由を思い出して、今の自分も思い出した。徹君が、思い出させてくれたんだよね」

「オレが?」

夢から覚めた時には記憶が戻っていたというから、そういう事かもしれないが、オレ自身はなにもしていない。

「徹君がバイクだったり指輪だったり、私の印象に残っていたものを呼び水として見せてくれたから夢に見たんだと思ってるよ。だからあの、ありがとう」

落ち着いた声で礼を言う姿が年相応でしみじみ落ち着く。

「でも徹君、あの時何て言ったの?」

「え?」

「夢の中で指輪をはめてくれながら」

向かって右手の薬指をオレの方にかざして言っているが、それこそオレに聞かれても困る。

他人の夢の中の台詞にまで責任は持てない。

でも

「多分、それは美希が子供の頃にオレによく言っていた事と同じじゃないのか?」

男が女性に指輪を贈りながら言う事といえば、一つだろう。

実際、指輪を渡した時は、子供相手と同様ではあっても、はっきりとプロポーズした訳だから、夢に出てきてもおかしくない。

ただ、美希がオレにプロポーズしていた事を覚えているかどうかは、分からないが。

期待薄で笑ってみせたら、ちょっと考えて、納得したように言った。

「そうかそうかもね」



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2019年2月25日 (月)

指輪 7-6

でも、いつまでたっても徹君には会えなくて、二人でゆっくり歩くだけ。

『徹君はどこ?』って聞こうと思った時に、急に金属のこすれる甲高い音とすぐに大きな衝撃音がして、目の前に壊れたバイクと、足元に指輪が転がってきたのが見えた。

それも怖かったんだけど、一番怖かったのは…徹君…徹君が吹っ飛んでいったのを思い出したこと。

事故にあった時に、本当に私が見たのかはよく分からない。

でも、強烈に印象に残ってて、私が頼んだことが原因でいなくなってしまうって感じたことがどうしようもなく怖くて。

子供のころから当たり前のように重ねてきた時間が、私の意思を無視して終わってしまったかもしれないと思った怖さは、どう言ったら伝わるかな。

無くしたくなくて、まだ一緒に過ごしたくて・・・で、思わず『徹君!』って叫んだら、隣から『何?』って返事が返ってきて、その知らないお兄さんが徹君だったって事が分かったの。

ずっとそばにいたことを理解していなかった私なのに、徹君は優しい顔で笑ってた。

私が言い出したから事故にあったこと、指輪が壊れちゃったこと、そして知らないお兄さん扱いしたことを謝ろうとしたんだけど、いっぺんに色々ありすぎて私が混乱してることは徹君は気にしてないみたいで、指輪あ、新しい方ね、を私の指にはめて一言二言何か言うと、『それじゃ、後で』ってどこかに行っちゃった。

そこで、目が覚めたの」



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2019年2月18日 (月)

指輪 7-5

「ごめん

美希だからこれで終わりにしてもらえたが、迷惑にも程がある。

社会的に人生が終わるような失態をする前に何とかしないと、と今までとは違う意味での情けなさを感じていた(と言いつつ余談ではあるが、その後も飲みすぎると全裸で寝る事を繰り返した。しかしどれだけ酔っていても、自分のテリトリーか否かは分かっているらしく、友人の家などの外でした事は一度もなかった。まあ、自宅以外ではまず寝ないのだが)

下着は新しいのを出し、後は手身近にあった物を手繰り寄せて着ながら、美希の話を聞いた。

「夢をね、見たんだ」

ポツリポツリ話す後ろ姿に、少しはにかんでいる様子が伺える。

「子供の頃の夢。

私と徹君で遊んでいたんだけど、徹君いなくなっちゃって。

探していたら、こっちだよって教えてくれる人が来たの。

知らないお兄さんなんだけど、不思議と何のためらいもなくついていったわ。

真っ暗だったんだけど、まわりに私と徹君の今までの事が写真みたいに見られたから、怖いとかもなくてね。



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2019年2月11日 (月)

指輪 7-4

「ご心配おかけしまして

話の途中だったが、そんな事はどうでもよかった。

「美希!」

「きゃぁ!」

思わず跳ね起きて、抱きついた。

いきなりで驚く美希に構わず、呟いた。

「よかった治って本当によかった」

「あ、あの

戸惑った声で美希が身体の動きを止めている。

「本来は感動のシーンなんだろうけど、これは端から見たらかなり情けないと思うよ」

「え?」

そう言われて、やけに背中が涼しい事に気がついた。

いや、背中だけではなく、尻も含め後ろ側全体が

自分の部屋とはいえ軽犯罪法違反のオンパレードに、離れた方がいいのか離れないで見えなくしている方がいいのか、非常に身動きが取りにくい。

「えと、目をつぶっているので、よくなったら言って」



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2019年2月 4日 (月)

指輪 7-3

陽が昇って一般的には活動時間となったらしく、誰かがオレの部屋のカーテンを開けた。

一気に明るくなったので、流石にまぶしい。

寝返りを打って枕元の人を見上げたオレを、堂々と覗き混んでいるのは美希だった。

Wake up~!」

いつものように叩かれても嫌なので、起きたついでに身体も起こす。

寝ぼけた頭で反射的に返事をした。

Good morning, Miki

「おはよう、徹君」

にっこり笑っている美希の、どこかたくましい表情にも違和感を覚えて、頭が一気に動き出した。

「美希?」

「はい?」

「お前、今いくつだ?」

「二十歳」

「オレは、誰?」

「竹本徹、お隣さんで幼馴染。私と同じ大学の工学部にいます」

今の状況を的確に話す。



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2019年1月28日 (月)

指輪 7-2

あまりの剣幕に、オレもジョーンさんも目をしばたたすばかり。

You'll hurt yourself again No!」

また怪我するからダメ!と力の限り叫ぶ。

気をつけて運転するから大丈夫と言っても、納得しない。

バイクがないと困るんだ、とオレの方が「Please」とお願いしてみたが、やはり年期が違うのか、聞き入れてはもらえず、しまいには怒って自分の家に駆け込んでしまった。

入院中にバイクで事故った怪我だと言ったとは思うが、そこまで拒絶反応を出さなくても。

呆気に取られたオレに、ジョーンさんの方が、一晩寝れば落ち着くと思うから、とすまなさそうに笑って美希の後を追い、まあ、今日はこれ以上どうにもならないなと、オレもそのまま家に帰った。

と言っても、次の日に何か好転した訳でもない。

新歓コンパの上、朝早く家を出たので、美希と顔を会わす暇がなかったのだ。

初の後輩へのホスト役で飲ませたし飲まされたし、何故か挑んできた先輩を何人か返り討ちに潰した気もするが、その頃からは微妙に記憶がはっきりしない。

夜中に帰ってきてベッドに潜り込んだ後は、ただただ惰眠を貪っていた。



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2019年1月21日 (月)

指輪 7-1

それからほどなく、新年度が始まった。

美希は通える状態ではないが、オレまで大学を休む訳にはいかない。

履修科目を決め、サークルにも巡演では迷惑をかけた事を詫びに顔を出す。

そして本格的な講義が始まる前にどうしても準備しなくてはならない物、バイクを購入した。

事故を起こしたバイクは残念ながら全損だ。

車もあるが、小回りのきくバイクの方が便利なので、買わなくてはならないのは分かってはいたが、美希の事にかまけていて遅くなってしまった。

試運転をかねて、少し遠回りをして帰ってきた夕方、コンビニから帰ってきたであろう美希とジョーンさんに家のすぐそばで鉢合わせた。

片手を上げて挨拶するが、フルフェイスのヘルメットを被っているので、誰だか分からないらしい。

シールドを上げて目を見せたら、ジョーンさんは笑って返してくれたが、美希は表情を固くした。

Toruの?」

「そうだよ」

ヘルメットを取りながら答えたら美希が泣きそうな顔をして叫んだ。

No!」



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2019年1月 3日 (木)

ようこそ竹本家へ

2
 
<プロローグ ~こんな一家だと思っていただければ~

 ○ 三つ子の魂・・・?  p1  p2  p3  p4

<竹本くんと中尾さん ~徹パパと美希ママがまだ家族じゃない時のお話。小説(一部漫画)です~

new 指輪 全8章 top

「アナタ、ダレ?」
一緒に育った15年が、相手からすっぽりと抜け落ちた・・・。

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     8-1

 当たり前だと思っていた基礎部分が、根こそぎ崩れた時。
 自分に本当に大事な「もの」は何なのかに気付くまでの二ヶ月間の話です。

以下はこちら(PCTOPスマホの方はこちら)からどうぞ。

 

<1ページ漫画(PCTOPスマホの方はこちら) ~気ままに、竹本家の日常です~

 

時系列順に並んでいます。各々関連はありませんが、お勧めは初めから。

 

 禁断の・・・?  お約束  男と女の理想と現実  夜行性?  新妻の背中
 いつものがいい  あぁ悲しき性(さが)  お好みは上?下?  二人だとあったかい  ああ、勘違い
 春になると増える  命名-長女の場合  赤ちゃんの頭の中(new)  新米パパの気がかり  新米パパの悩み
 決め手は実用のみ  気分は誰よりも高く  あのね  それって売ってるの?  少年の心
 勘違いシャボン玉  お星さまお願い-長女の場合  命名-長男の場合  ゴメンナサイ  主婦二人?
 女の子の夢ぶった切り  ツインテールと誤解  正直者は損をする  赤ちゃんの友  オンナゴコロ
 指三本  すりすり  オトコゴゴロ  猫の一家?  勘違い森のくまさん
 小二×お風呂=  勘違い不思議なポケット  お星さまお願い-長男の場合  幼稚園で習った?  叫び慣れてる方が(new)
 勘違い一年生になったら  実践おやじギャグ  実践おやじギャグ・その二  多分標準的  悪口一続き
 南の窓と北の窓  思わず手が出た  女の敵のあしらい方  女の子の秘密  学習しない奴ら
 怒りのスプーン  げんこつ一発  二度目撃した男  さて、親の意図は・・・?  三つ子の癖
 でっかいのが


<本のある漫画 ~一話に一冊ずつ、本が絡んでいます~

 

最新 パパはウルトラマン (全30p top)

 

 p1  p2  p3  p4  p5  p6  p7  p8  p9  p10  p11  p12  p13  p14  p15

 

  p16  p17  p18  p19  p20  p21  p22  p23  p24  p25  p26  p27  p28  p29  p30

 


 (「おとうさんはウルトラマン」 1996年発行 「パパはウルトラセブン」 1999年発行 他シリーズ全7冊 みやにしたつや作・絵 円谷プロダクション監修 学研)

 

 外でお父さんが頑張れるのはなぜでしょう? 会社と家と、見せる表情の違いやいかに?の男の話(笑)

 

以下はこちら(PCTOPスマホの方はこちら)からどうぞ。

 

2018年12月17日 (月)

指輪 6-5

Oh, no. It's OK, I have this ring from Toru

What do you mean?

どういう事?と聞いたら、ママから聞いたんだけどね、と柔らかいトーンで説明を始めた。

Giving a ring means 'Marry me?' I love Toru-kun, but I love you, too. I will marry you

子供でも女の子だ。

男が指輪を贈る意味をちゃんと理解している。

だけどオレが驚いた事はそんな事ではなくて驚いたのは美希の喋ったフレーズのトーンやリズム。

子供の時に聞いた、よく分からないけど、でも覚えている優しい声のトーンやリズムと同じだ。

今聞いたら何を言っているのかが、ようやく分かった。

クスクス笑っている他の三人を横目に、オレも同様に、でもはっきりと言った。

Would you marry me?

Sure!

快諾した美希が、子供の時に言っていた言葉は、オレへのプロポーズだったわけだ。

おしゃまな、だけど優しい言葉が心に温かかった。



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