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2012年11月 3日 (土)

ファーストダンス 7

やましい記憶は無いが、心あたりはある気がする。

案の定、美希は説明しろと無言の圧力をかけてきた。

「それは…人違いではないですか?」

「そんな見え透いた嘘、よく言えたわね。私とバッチリ目が合ったじゃない。私達が美希ちゃんの友人だと知らなかったから悪びれもせず、でもおあいにく様。こんな日だからこそ、心を鬼にしてはっきりさせるわよ。それが美希ちゃんの為だもの。たとえ今恨まれてもね」

とんでもない浮気男にされて、同僚含め控え室中の黒山が10メートルは後ずさった気配がするが、それはオレじゃない。オレじゃないなら該当する人物はただ一人。

「あれ~?どうしたの」

ただならぬ雰囲気を一気に萎えさせる脳天気な声が入り口から聞こえてきた。隣に髪の毛を後ろでまとめて水色のワンピースを着た女性を伴い、ダークスーツを着ている自身の腕にはちょこんと赤ん坊のお尻が乗っている。

「え…え?」

まさに目が点とはこんな顔を言うのだろう。オレと兄貴の顔を交互に比べ見てエンジ紺クリームは三人三様に固まっている。

「あなた達が見たのは、兄と義姉じゃないんでしょうか?」

「嘘、でも・・・」

「何、どうした」

今来たばかりで分けのわからない兄貴は、オレと美希を交互に見る。

「兄貴、何してたんだよ。さっき、階段でお義姉さんと」

「奥さんに、愛情表現」

「今日はいい天気ですね、みたいにサラッと言うなよ。また間違われたぞ。しかも今回は非常~に嫌なタイミングと理由で迷惑なんだけど」

「そうか?わりーわりー」

「悪いと思ってないだろう!」

「所でさ」

やはり悪いとは思っていない兄貴はそっけなく方向を変えて女性三人組に近づくと、ポケットから何かを取り出して見せた。

「さっき、階段の所で見つけたんだけど、ちがいます?」

手の中の物を見るやいなや、エンジの女性がパッと手を両耳に当てた。

「あ、ない。私のです。ありがとうございます」

兄貴から真珠のイヤリングを受け取って、左耳に着ける。これで階段の所にいたのは兄貴だと、分かってもらえただろう。

「やっぱりね・・・」

ウエディングドレスを着ている事を忘れているかのような、腰に手を当てた仁王立ちの美希がつぶやいた。

「違うって言ってるのに、信じてくれないんだもん」

「だって・・・まさかここまでそっくりとは」

亀だったら全部頭を引っ込めているだろうというくらい、女性三人は首を縮めている。そんな友人達に、美希は遠慮なしに言い放った。

「徹君はこの手に関しては、器用じゃない」

兄貴、心子はじめ、双方の家族(太郎さん除く)が一斉に吹いた。特に兄貴は慌ててお義姉さんが大事な息子を抱えあげて救出しなくてはならないほど、腹をよじって笑っている。

「えと・・・疑ってすみませんでした」

一番近くにいたクリーム色の女性が口火を切ったのをきっかけに、おずおずと三人が並んで頭を下げる。

「いえ、誤解が解ければそれで」

「おちおち奥さんと話も出来ないな」

「ご愁傷様・・・」

茶目っ気たっぷりに言う美希に男三人が遠慮がちに近づいてきた。

「ええと・・・奥様?」

田中さんが美希の顔を覗き込むように聞く。

「お・・・奥様?」

思いもよらぬ単語に目を丸くして聞き返す花嫁に、いや、この状況でこの人でなかったらオレは誰と結婚するんだと突っ込みたくなるくらい、弱気な反応を返す。

「いえ、あの・・・」

他人の身体的特徴をじろじろと観察するのは失礼に当たるくらいの常識はあるが、やはり気になるのだろう。挙動不審な様子に、美希が首を傾げる。

「瞳が青いでしょう?」

歩み寄って、小声で三人に話しかける。その一言で、納得したようだ。

「二次会で司会をする田中と言います・・・ええと、お忙しいでしょうから、詳しい話はまた後で・・・」

そそくさと帰ろうとする男三人と、それに便乗して、小さくなりながらも軽く手を振ってその場を離れようとする女性三人組を、オレと美希が同時に引き止める。二人で六人分舐めるように視線を走らせた跡、お互いを指差して口を開く。

「オレが」

「私が」

そして同時に、廊下にも響き渡る大声で言い切った。

「結婚するのはこの人!!」

いい加減、覚えて欲しい。



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