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2012年11月 1日 (木)

ファーストダンス 6

「徹君」

ベールこそ付いていないが、ウエディングドレス姿の美希だ。

走って来たわけではないだろうが、気持ちはダッシュで駆け付けましたと言わんばかりの表情だ。その剣幕に、今の話を聞かれたかとカラスが三羽、後ずさる。

「どうした」

オレも思わぬ花嫁の登場に目をしばたたせた。

心の準備が整う前のいきなりの晴れ姿だが、目を見開いて肩で息をし、スカートをたくし上げている手はどことなくたくましい、こんな時でさえ活気が身体から漏れ出ている普段通りの美希を見て、安心した。

いや、本来は初めてウエディングドレス姿を見た時は「綺麗だよ」と言うのが筋なのだろうが、まぁ、このオレの感想は黙っておこう。

「健ちゃん、いる?」

「兄貴?」

隅に寄った三人には目もくれず、かえって道が空いて都合がいいとばかりに、にじり寄る。

その後ろに、さっきは気付かなかったエンジ紺クリームの女性三人がおずおずと、でも明らかにオレの事を睨みながら続いた。

「ここには、いないみたいだけど」

部屋の中を一通り見渡して答えると、また一歩足を進める。

「じゃあ、徹君はさっきどこで何してた?」

「さっき?」

何が聞きたいのか検討がつかず、思わず心子と顔を合わせた。

15分位前から、ここにいるけど」

うんうん、と頷く心子とオレの顔を美希は交互に見る。 

「その前は?」

「その前は…会場を覗いて、覗く前は着替えてた。着替える前は」

「嘘!」

訳も分からず、オレの行動の時間軸を遡っていくと、横からクリーム色の女性が割り込んできた。

「ついさっき、そこの階段の所で女の人と会ってたでしょう。それもかなり親しげに」

かなり、を思い切り強調して言うので、あまりの爆弾発言に控え室の中が静まり、痛いほどの視線の嵐だ。

「女の人…心子?」

もう一度視線を合わせるが、強制的に遮られた。

「この人じゃないわよ。フツーに日本人で、水色のワンピース着て、あの女、誰?」



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