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2012年11月 5日 (月)

ファーストダンス 8

支度の段階からこんな感じでどうなる事かと思ったが、本番はプロの手馴れた段取りで滞りなく済んだ。

チャペルで花嫁が父親と入場してくるのを待つときは、オレ一人でゲストの前で晒されて居心地が悪かったが、花嫁が入ってくればオレの存在感は一旦消える。

見事に注目が美希と太郎さんに移るわけだが、本番の緊張感も加わってか、凛としたたたずまいの美希のウエディングドレス姿に一瞬新郎としての自分の立場を忘れた。

それを思い出させたのはオレに向かって一緒に近づいてくる太郎さんの顔。赤ら顔に口を真一文字に閉め、にらみ付ける様に前進してくるがオレの顔は見ていない。

新郎の前で立ち止まったときも、花嫁を放してくれないのではと不安がよぎったがそんな事もなく、でも最後までオレと視線が合う事は無かった。

「泣くのを我慢してたみたいよ」

とその日の夜、美希がしみじみと言っていたが、花嫁の父も色々と複雑なんだろうなと改めて思った。

披露宴も各テーブルを回る口実にキャンドルサービスはしたが、ケーキカットに相当する物は省いた。その分の時間と場所がもったいないと言う美希の一存でそうなり、姫の仰せのままに、と諦めもつくというかご意見番不要でいよいよ本番。

裾が後ろに長く引きずるタイプのウエディングドレスだったため「これじゃ踊れない!」というのがお色直しの理由、と、どこまでもファーストダンス基準の美希。青を基調としたシンプルなデザインのドレスに着替えて、さぞかし歓喜しているのかと思いきや、顔が緊張のため凝り固まっていた。

「大丈夫か?」

除きこむとコキコキと音が出てるんじゃないかと思うくらい、ぎこちなくこちらを向く美希。

「だ、大丈夫・・・」

と言う声は掠れていて、その後に

「・・・じゃないかも」

と続いた。

「練習どおりやれば、大丈夫だ」

いつもなら頭をぽんぽんと叩く所だが、ティアラが乗っているので今は無理。変わりに美希が組んでいるオレの腕をぎゅっと握り締めた。

「徹君はどうして、そう堂々としてられるの?」

再入場するためにドアが開くのを待っている訳だから、オレだって緊張しているが、そわそわしていない分落ち着いて見えるのだろうか。

「徹君って、いっつもそうだよね。自分だけ澄ました顔して」

 口を尖らし、眉間にしわが寄る。花嫁にらしからぬ表情。

「顔が怖いぞ」

「だって・・・」

「準備が整ったようです。よろしいですか」

その時、前で待機していたスタッフがドアを開けた。スポットライトの明かりとBGMに、今まで薄暗い静かな所で待機していたオレ達は、一瞬面食らった。

気を取り直して歩き出そうとするが美希は動かない。見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「徹君・・・」

「練習どおりやれば大丈夫。花嫁は笑っていればいい」

腕にしがみついている華奢な手を、ぽんぽんと叩きながら言う。あえて意識して笑顔を見せてやると、つられて表情が緩んだ美希はオレの歩みについて来た。

ドアから二人移動している間に、司会者がファーストダンスの何たるかを簡単に説明している。円卓の間をぬうように進み、目的を知らなければ不自然に空いている空間に着いても言葉が続き音楽にはならない。

逆光で細かい表情は分からなくても、部屋中の顔は漏れなくこちらを向いている。

好奇心その物を圧力に感じてたじろぐが、一度深呼吸すると視線はほぼ美希に注がれている事が分かって、自然と肩が下がった。

気付かないうちに肩に力が入っていたのだ。

美希に大きな事言えないなと思わず苦笑すると、笑っている所を目ざとく見つけられた。

「そうやって、自分だけ余裕綽々でずるい」

余裕綽々…。そんな訳あるかと横目で見ると、睨まれた。



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