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2012年11月13日 (火)

ファーストダンス 12

「何つけてるんだ」

「え?」

親父が頬を指すので触ってみるが何もない。母親が笑いを堪えながらバッグから鏡を取り出すと、こちらに向けた。

「何だ、これ~!!

まだ中にいるその他親族が一斉に飛び上がる勢いで大声を出す。

鏡の中の頬には、紅の跡…キスマークが存在を主張していた。

美希曰わく感動のセリフ、の後キスされた時のだ。

隣で壁に手を付いて笑いすぎて息も絶え絶えになっている兄貴の様子から察するに、全て承知の上でここに連れてきたに違いない。美希も下手に追いかけて一緒にいてしまったら、自分が付けた事は明白なので恥ずかしくて来なかったのだ。

「何で…」

一言頬を拭けと言わないんだ。こんな恥ずかしい顔でずっと廊下を歩いてきたぞ。

拳で頬を思い切り擦りながら、オレに背を向けて肩を震わせている兄貴の襟首をむんずと掴むと、力の限り引きずり倒した。

「わりー、わりー」

「悪いと思ってないだろう」

「いやー、だって邪魔したろ?二次会の…」

「何の邪魔だ!」

廊下を逃げようとする兄貴を後ろから羽交い締めにする。それでも笑いの止まらない兄貴と叱咤し続けるオレの横で、母親が鏡をきちんとしまってから仲介に入る。

「ちょっと~。タキシード、お借りしてるんだからね」

ようやく兄弟を引き離す事に成功した母親の隣で、親父が伯父さんに言われていた。

「お前んとこの息子は、結婚しても子供の頃と何にも変わらないんだな」

 

 

 

結局、恥ずかしい思い出と共に語り継がれる事になった。

親類のいない所では、という条件つきだが(でないとオレのひと睨みで強制終了になるからだ)美希は終始笑顔で思い出話をするので、まぁ、上手くいったと言えるだろう。

いくつも披露宴に出るとその内印象が似通ってくる物だが、ダンスをした、となれば記憶に残る。そういう意味でも女性同士しばらく話題に事欠かないらしい。

男側からすれば決してお勧めできる演出ではないが、黙って、は無理だったものの夫になる者の最初の務めを無事果たしただけの成果はあった。

新婚生活、滑り出しは上々だ。

機嫌良く暮らす娘を見て太郎さんのオレに対する態度もようやく軟化し、自分のファーストダンス時の苦労話も聞かせてくれる様になった。

尻に敷かれ気味くらいが丁度いいのではないか。そう、台所に並んで立っているお互いの妻の背中を眺めながら笑った。

想定の範囲内でも範囲外でも、二人で何とかやっている。家族が増えても、それはそれで何とかなるだろう。

だがやはり願わくば、娘が産まれたとしても「ファーストダンスをやりたいんだけど…」と結婚相手に言い出さない程度に思い出を語ってもらいたいものだ。



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 お疲れ様でした。えー、色々な方が。

 乙女の夢、向かうところ敵なし!といった感じでしょうか。とりあえず、花嫁の希望を納得のいく形で叶えてあげられる器の大きさがあった方が、その後も何かと幸せに過ごせるのではないかと思います、はい。

 その後の二人は漫画の方で、一つよろしくお願いします。

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