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2012年11月11日 (日)

ファーストダンス 11

「でも前にも言ったけど、オレには文才が無いから気のきいた事は…」

「文才云々は関係ありません」

オレの前に立ちはだかるように、美希は止まった。

「言葉に出して言えなんて事は期待してません。歯の浮きそうなセリフが徹君から出てくる訳が無い」

よくお分かりで。

「でも、それを表す方法は他にもあるんだし」

じ~っとオレの瞳を覗き込んだ。

目は口ほどに物を言う? 鼻同士以上にくっつきそうな近さに多少焦るが堪えていると、少しして美希は満足そうに離れていった。オレの瞳は、今何か語ったんだろうか。

「うん」

何をどう納得したのか皆目見当がつかないが、くすくす笑って機嫌はよくなった。

「徹君て、自分の事となると鈍いよね」

「え?」

「無感動な訳ではないのに取り澄ましてる感が強くて損してる気がするんだけど、でも感動しまくってる徹君は徹君じゃないよね」

調子よく感動するのは兄貴の方だ。悪いがこれ以上類似点はいらない。

「だからこういう人だって思い込んでたんだけど、面白いね、まだまだ発見があるんだよ」

ふわりとスカートを翻してまた歩き出した。

同じ事を考えているのかな、と思う。知ってると思っていて、知ってるつもりだったのに、知らない事がいくらでも出てきて、そしてそれを待ち望んでいる。

「そうだな」

そのまま一緒に少し歩いて花嫁控え室の前。オレは親族の控え室を通り越してもう少し先なので「じゃあ、後で」と通り過ぎようとした。

「あ…待って」

美希がオレの袖を思い切り引っ張る。

「な、何だ?」

「えっ…とね」

袖を持ったまま、反対側の手でドアとオレの事を交互に指さしている。

いつもながら要点がつかめないので、当てずっぽうで美希の知りたそうな事を答えた。

「二次会の会場へはタクシーで一緒に行くから、迷子になる心配はないぞ」

「そうじゃない」

袖ではなく腕を引っ張られて、思わず踏ん張った。どこに連れて行くつもりだ。その先は更衣室にも等しいドアだぞ。そこに

「徹~。政伯父さん達が…」

と兄貴がのんびり歩いてきた。

花嫁控え室の前ですったもんだしているオレ達を見て、引きつり笑いを浮かべ立ち止まる。

「徹、仲が良いのは構わんがそこは入っちゃ駄目だろう」

「誰が入ろうとしてる。連れ込まれそうになってるのはオレだ」

やっとの事で、腕を振りほどく。

「続きは二次会が終わってからにしろ。もっとも、その前に伯父さん達に…」

今度は兄貴に肩をガッチリ掴まれて、歩かされた。

美希がかなり焦った様子で自分の頬を触っている。

「そのまま行っちゃ駄目~」

悲壮感漂うセリフにもかかわらず、美希は自分の控え室に入ってしまったのか、親族控え室にはオレと兄貴だけが到着した。政伯父さん夫婦が大荷物を抱えて廊下にはみ出して親達と話をしているのが見える。

「徹、政伯父さん達もう帰るって言うからご挨拶を…」

近付くにつれて、親父の言葉が先細る。そこにいる親戚一同がオレの顔を凝視した。



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