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2012年10月29日 (月)

ファーストダンス 5

何だかんだで当日。

一応お見せ出来る程度に仕上げる事は出来た。

とはいえ、タキシードに着替えてサラッと本番スペースを見た後はする事がない。

なるべく広くなるよう努力してくれているのは分かるが、ダンスホールではない以上限界はある。気をつけないとドレスの裾が機材やコードに引っかかりそうだ。

新郎に比べ格段に忙しい新婦は未だ準備に余念がない。

念の為伝えておこうと控え室に向かったら心子に目ざとく見つけられて押し戻された。

「お姉ちゃんの晴れ姿は、本番までのお楽しみ」

「ドレスを選ぶ時に、試着したの見たけど?」

竹本家、中尾家控え室と書かれた看板の横をグイグイ押されて部屋に入る。学校の教室くらいの部屋に丸テーブルが5,6台。入り口付近には長テーブルが置いてあり、荷物置き場権、端の方にセルフでお茶や水、ジュースが飲める様に一式揃っていた。

「ベールも無ければメイクもなし、体型に合うように微調整もなしに、た~だ着ただけのドレス姿と一緒にし、な、い。それ以上に変身途中は見ちゃ駄目」

オレも含め、黒々した人だかりの中にピンクのワンピースが入ると、主役の一人である新郎より目立つ。髪の色も瞳や肌の色もオレより明るいから、余計に目立つというより、オレは引き立て役だ(そもそも男はそうなのだと言われればそれまでだが)

「それに花嫁控え室って、確かに控え室だけど、こんな部屋じゃなくて広い更衣室みたいな感じだよ?」

更衣室…は、いくら着替えが済んでいたとしても、入っていく勇気はない。仕方なく、手短にあった椅子に腰掛けた。

「もうすぐ本番じゃん。慌てない、慌てない」

ポンポンと肩を叩かれた。

「別に慌ててはないけど」

「でも、どんな姿か、気になるでしょう?」

「そりゃ、まあね」

常識的に考えれば、一番綺麗な姿をぶつけてくるはずなのだ。

スカートであるにも関わらず痴漢に蹴りを入れるほど、アクティブな行動に出てしまう美希だから、どのような花嫁姿になるのかオレの想像力の方が限界に来ている。

「でも、こんな所でふらふらしてていいの?」

心子が両手に一つずつ、コップを持って戻ってきた。茶色の液体はウーロン茶か、オレの目の前に置いて自分も隣の席に腰掛けると一口飲む。

「花嫁待ちだから、する事が無い」

式のリハーサルもあるが、どのみちオレ一人ではどうにもならないのだ。

「男はタキシードだから、お楽しみって事もないしね~」

テーブルに対し半分斜めに座っているオレの姿をざっと捉えた後、控え室の中に視線を走らせる。モーニング、ダークスーツ、黒留袖。そこに混じった所で面白くも何とも無い。

「でも、似合うね」

くすくす笑いながら、一応褒めてくれた。

「そうかぁ?着慣れないから借り物みたいで、落ち着かないけど」

「レンタルでしょうよ」

一瞬、間が開いてから

「緊張してるの?」

と、真顔で聞かれた。

緊張感はあってもそこまで固まってるつもりは無いのだが、少し言葉に詰まる。

そこに

「あー、竹本さん、いたー」

と、のんびりした声が聞こえてきた。受付をお願いしている会社の後輩の俊君だ。

「な、何でここに?ホテルのスタッフに声をかけるようにって言っただろう」

「声かけましたよ。会場の前でちゃんと説明聞いたんですけど、トイレに行くのに離れたら戻れなくなっちゃったんです」

まるで美希の様だと呆れながら、席を立つ。

「ここの廊下をまっすぐ言って、エレベーターホールの次を右に曲がって・・・」

廊下に出て説明していると、その指し示した角から二人、男が早足で曲がって出てきた。

「何でこんな所に来てるんだ~」

先輩の田中さんと同期の伊達君、会社での両隣だ。

「お二人こそ、何でここに」

「受付が一人消えたって言うから、もう着いている連中で探してた」

「早くないですか?」

「俺等は二次会の打ち合わせもあんだよ」

田中さんが自分と伊達君を交互に指差す。

「すみませんでした、竹本さん。式の打ち合わせで忙しいんでしょうから、奥様と一緒にいて下さい」

俊君が申し訳なさげに田中さん達の方に歩み寄る。

「奥様?」

「まだ式の前だから、奥様は変でしたか?」

慌てて弁解する俊君の視線は、心子を捉えている。田中さんと伊達君も同様だ。

「美人の奥様で羨ましいなあ」

何となく、察しは着いた。婚約者はハーフだと、当たり前のように付加情報として広まっているので、典型的、イメージ通りの心子が結婚相手と勘違いしているのだろう。

「彼女は新婦の妹だけど」

「え?だって、ハーフだって・・・」

「姉妹なんだから妹だってハーフです。だいたい、新婦が今頃私服でこんな所をうろうろしている訳、無いでしょう」

そういえば一度、美希と一緒の時に街中で偶然課長に会った時も、初め怪訝な顔をされた。思うに、想像していた姿と実際の美希の姿がかけ離れていたため、はっきり紹介されるまで噂の婚約者として結びつかなかったんだろう。

こっちとしては勝手に思いこむなと言いたいが…。

男三人が誤魔化し笑いをしながら退散しようとしたその時、視界の中に大きな白い物が飛び込んできた。



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