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2012年10月21日 (日)

ファーストダンス 1

「ファ…ファ…」

くしゃみをしたい訳ではない。

今聞いた言葉を反芻し、認識して検証した所で、オレの脳内でシナプスから放出されるはずの神経伝達物質がつかえて停滞しかかっているのだ。

隣で完全におねだりモードに突入している美希が、静かにオレの顔を見上げている。

が、場所柄もわきまえず大声を上げる事でオレは無理やり自分の思考を押し動かした。

「ファーストダンス~!?

 

秋に結婚が決まった。

互いの家族の顔合わせも、いるんだかいらないんだか妙な感覚だったが、美希の父親の鶴の一声で基本に忠実に結納を交わして無事済んだ。

知り合ってから20年、隣同士家族ぐるみの交流がある間柄であるからこそけじめが大切と、一本筋の通った言い分に反対する人は誰もいない。

と言うか、そもそもその筋の通し方が尋常じゃなく殺気立っていて、肯定否定関係なく首を縦に振るしかなかったのだ。

いや「かった」というよりは「ない」と現在形、現在進行形の方が正しいだろう。

…オレ個人に対しては。

結婚に関する具体的事柄を話に行くと、不快感を押し隠そうともせず睨まれる。

終いには美希に「私の幸せを願ってるんだよね?」と、確認されてしまうほど、略奪者への威嚇は凄まじい。

「ま、結婚しちゃったら流石に諦めるでしょうから、それまで我慢してくれる?」

と言うのは反対にいつも満面の笑みを浮かべている美希の母親。

他に手は無いでしょう、と答えたのは確か先週で、お互い朗らかに別れたまではよかったのだが。

「あら、ごめんなさいね~」

と、血相を変えているオレの目の前では前回と同じニコニコと明るい青い瞳が金髪と共に輝いている。 

「美希がそんな夢を持っちゃったのは私のせいかしらね~」

下にも添えて上品に湯のみを持っているその両手はオレの手に比べると各段に白い。

和菓子と日本茶が好きなこの女性、ジョーンさんは米国出身だ。

日本人男性(美希の父親・太郎さん)と結婚して日本に移り住み、うちの隣に引っ越して来たのが知り合うキッカケで、つまる所、美希達姉妹はハーフという事になる。

と言っても美希は瞳の色がいささか青い位で、他は太郎さんに似てほぼ日本人だ。対して妹の心子はライトブラウンの瞳と髪で典型的なハーフ顔をしているので、いい加減諦めもつく程よく間違えられるオレ達兄弟とは対称的だったりするのだが、それはともかく。

「小さい時に私達のダンスの事、すり込みすぎたかしら」

にっこり微笑まれても、それ以外にこんな事言い出す理由が思いつかない。

「どうにかなりませんか」

この人以外に頼れる相手はいない、最終手段。が、返答はやはりオレに対しては無益な物だった。

「どうにもならないと思うわ~。」

がっくり落としたオレの肩に手を置くと、優しく、でもきっぱりと最後通告の言葉を出した。

「何とかなるわよ。徹君」 



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